生理学的要素の考察
- 鎌状赤血球形成傾向は遺伝疾患であり、特定民族に伝わる疾患ではない。
- 正常ヘモグロビン(A)と鎌状赤血球ヘモグロビン(S)の遺伝子をひとつずつ受け継ぎ、遺伝子型がASとなる。
- 鎌状赤血球貧血とは異なる。鎌状赤血球貧血は鎌状赤血球貧血遺伝子を2つもつ(SS)ことで生じる疾患。
- 鎌状赤血球形成傾向が鎌状赤血球貧血に転じることはない。
- 激しい最大運動中に、酸素濃度の低下によって、一部の赤血球が正常な円盤状から鎌・半月のような形状に変化。
- 鎌状赤血球は、筋、腎臓、その他の臓器の血管に付着して詰まり、組織の壊死と機能不全を引き起こす。
- 運動の強度が激しく、速度が速いほど、鎌状赤血球化は短時間かつ高確率で起こる。
- (事例)鎌状赤血球化による障害は、800-1.200mスプリント、2-3分の激しい運動中に発生。
- 暑熱、脱水、喘息、および高地など条件下では、身体的負担が増大し、血中酸素濃度が低下するため、鎌状赤血球化が促進。
- SCTを有するアスリートが、通常慣れているレベル以上の身体活動を行うと、急性労作性横紋筋融解症 (Acute exertional rhabdomyolysis : AER)を引き起こす可能性。
- 急性労作性横紋筋融解症は、場合によっては腎不全を引き起こし、進行すると筋虚弱を引き起こし、場合によっては心停止に至る。
- 鎌状赤血球化は、血中酸素濃度が40%以下にならないと起こらず、鎌状赤血球は肺で酸素を取り込むと正常な形に戻るが、激しい運動により起こる代謝変化を考慮。
- 運動により低酸素血症が進むと、鎌状赤血球は動脈循環に備蓄し、筋の血管を詰まらせAERを引き起こし、血流を阻害して心臓や脳などの重要臓器の組織を壊死させる可能性。
- 脾臓への血流阻害は脾臓塞の原因となる。
- 前兆は左上腹部または下胸部の痛み、悪心、嘔吐がみられる。
- 脾臓塞の症状は、胸膜炎、気胸症、「脇腹痛」、腎仙痛に似ている。
現場への応用、予防と処置
- 体温、呼吸数、血圧、心拍数などバイタルサインをチェックして監視する。変化がないか定期的に再評価する。
- 高流量の酸素を(可能なら)151PMで、非再呼吸式マスクを用いて投与する。常に準備しておく。
- 必要なら身体を冷やす。暑熱と日光から遠ざけ、アイスバスに入れる、アイスタオルで冷やす、鼠径部、頸部、腋窩の大血管が走るところに氷嚢を当て、素早く深部温を下げる。
- バイタルサインが低下したら、救急車を呼び、自動体外式除細動器(AED)を装着し、可能であれば静脈内輸血を開始し、迅速に病院へ運ぶ。
- 激しい横紋筋融解症と、危篤なSCTの代謝性合併症が起こる可能性を医師に伝える。
身体活動への復帰
・迅速に処置
- 鎌状赤血球化を停止させ、休息、酸素投与、冷却、水分補給の処置が早いほど、結果は良好になる。
- 迅速に処置すれば、鎌状赤血球は正常に戻り、約15-30分後には体調が回復。
- 翌日には競技復帰できる。
- 30分以内に体調回復した場合でも、血管接着分子は運動後数時間にわたり高濃度を維持するため、その間はまだ注意を要する。
・中程度の横紋筋融解症
- 中程度の横紋筋融解症では、筋壊死、クレアチンキナーゼ濃度の上昇が生じるが、腎障害には至らない。
- アスリートは2週間ほど休養し、徐々に競技に復帰する。
・腎不全を伴う重度の横紋筋融解症
- 腎不全を伴う重度の横紋筋融解症を起こした場合、競技復帰は不可能であり、永続的に機能が失われる可能性。
(Vol22 Num2 Mar 2015 p62-p66)
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