2015年7月1日水曜日

暑熱環境下に備えるプレクーリング(Precooling)


人体は、深部体温38-40℃の危険域に達すると、細胞損傷、熱関連疾患に対する防衛手段として、疲労やペースの変化が起こり、運動自体の中断も起こる可能性がある。

気温30℃を超える環境下トレーニングや試合を行う場合の運動前または運動中の体温コントロール

プレクーリングの基本は十分な水分補給である

それに加え暑熱環境下でのパフォーマンスの維持や改善の手段としてプレクーリング(Precooling)を活用



○プレクーリングの実用的要点のまとめ (表が崩れてしまいました)
冷却法
最新研究に基ずく効果
実用性
準備と利用の簡便性
携帯性
費用
その他の必要条件
水風呂
持久系競技
持久系競技
簡便性なし
中等度
普通―高価
水、排水、電源
ミスト
ファン
パフォーマンスの向上効果はまだ証明されていない
チームスポーツ
簡便性なし
低い
高価
水、電源
冷水
シャワー
パフォーマンスの向上効果はまだ証明されていない
チームスポーツ、持久系競技
非常に簡便
携帯はできないが、利用できる施設は多い
非常に安価
シャワー設備
空冷
持久系競技
非実用的
簡便性なし
非常に低い
非常に高価
空冷室
アイス
ベスト
持久系競技
持久系競技
簡便
高い
普通
携帯クーラーまたはフリーザー
アイス
パック
反復スプリント
反復スプリント
簡便
高い
安価―非常に安価
携帯クーラーまたはフリーザー
アイス
タオル
反復スプリントと持久系競技
反復スプリントと持久系競技
簡便
高い
非常に安価
携帯クーラーまたはフリーザー
アイス
スラリー
持久系競技
チームスポーツ、持久系競技
ある程度簡便
中程度
普通ー高価
スラッシュマシーンまたは作り置きのスラリーを運ぶクーラー
※アイススラリー:シャーベット状の氷水

冷却衣類(アイスベスト、アイスパック、ネックカラー、アイスタオルなど)は、ウォームアップ中に着用すると、皮膚と血液を冷やすことでウォームアップ中の余分な熱が吸収され、また冷えた血液が全身を巡ることにより体温が下がるので最も効果的である。


○プロトコル

水風呂
  • ウォームアップ直前60分間、29℃から始め水温を10分ごとに1-2℃ずつ低下させる。

ミストファン
  • ファンの前に立ち、50ml / 分のミストを身体の前後に20分間浴びる。

冷水シャワー
  • ウォームアップ直前の60分間かけて水温を28℃から24℃に低下させる。

空冷
  • 0-5℃の冷風を15分の冷却と20分の復温を100-130分かけて繰り返す。

アイスベスト
  • ウォームアップ中に15-65分着用する。

アイスパック
  • ウォームアップ直前の20分間、目的の筋群に使用する。

アイスタオル
  • 試合前の20分間、ウォームアップ中に着用。
  • 熱感応性がきわめて高い頭や首を冷やす。

アイススラリー
  • 試合開始前に20-30分かけて500ml を摂取する。


(Vol 22 Num 6 Jul 2015 p17-p22)




追加


  • 複数の冷却研究により、運動中の冷却が喉の渇きを減少させる。
  • 潜在的に活動中の不十分な水分補給や脱水状態、またはパフォーマンスの低下につながる危険性がある。




(Vol 24 Num 5 Jun 2017 p52-p53)



追加


カーディアックドリフト (cardiac drift)


  • 脱水状態に対する心拍数反応は、体重が1%減少するごとに心拍数が4-6bpm増加する。
  • この心拍数増加は血漿量の減少により1回拍出量が減少してるにもかかわらず、血圧を維持し、動員中の筋に確実に血液を送り届け、放熱に必要な皮膚の血流を維持するために起こる。


カーディアックドリフトの大きさは、脱水状態と心拍数反応の程度に関係がある。


  • 1回拍出量の変化をもたらす心拍数の増加のことであり、暑熱環境でよくみられるパフォーマンスの低下が起こる。
  • カーディアックドリフトと心臓血管系ストレス増加によって、疲労困憊までの時間が28-37%短くなり、ピークパワー能力が12-17%減少する変化が起こる。



(Vol 24 Num 5 Jun 2017 p20)



追加 : サプリメント


ベタイン


  • オスモライト(浸透圧調整物質)として働き、細胞内容積を保ち、細胞機能を維持することにより、脱水症状のマイナス作用を軽減すると示唆されている。
  • メカニズムの研究は不足しているが、暑熱環境での疲労研究では、ベタインにより疲労困憊までのスプリントタイムは向上しなかった。しかもベタインの補給は血中乳酸濃度を高め、酸素摂取量をわずかに増加させた。
  • 研究でベタインの補給が、暑熱環境での筋力と無酸素性パワーに関する選択的なテスト結果を改善すると明らかに。
  • ベタインの暑熱環境におけるエルゴジェニックエイドとしての効果を裏付けるための更なるエビデンスが必要。



(Vol 24 Num 5 Jun 2017 p24)


追記:摂取成分(ガイドライン)

  • 電解質と糖質を含んだスポーツ飲料などを摂取する。
  • 塩分0.1-0.2%(ナトリュウム:40-80 mg / 100ml)を含んだ飲料の摂取が推奨
  • 持久力系で1時間以上運動を継続する場合、4-8%(4-8 g / 100ml)程度の糖質が含まれた飲料が有効

糖質(ブドウ糖+果糖)を含んだスポーツ飲料は疲労の予防だけでなく、腸管内での吸収スピードを速め、保水率を高めることが期待

アイススラリー成分
  • ミキサーでスポーツ飲料で作成することで、糖 - 電解質の補給が出来る。

暑熱順化のためのトレーニング

  • 暑熱順化を開始すると3日前後から発汗量の増加、心拍数の低下、体温上昇度の低下など生理的変化がみられる。
  • 最適な運動パフォーマンスを発揮するためには、一般的に7-10日が必要。


(Vol 25 Num 6 July 2018 p2-p10)

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